法人に相続税評価額で譲渡
個人が保有している同族会社の株式を発行法人に売却することがあります。この場合、譲渡価額を相続税評価額に基づくと、思わぬ課税が生じる可能性があります。なぜなら、相続税評価額は、個人間の贈与や相続の際に用いられるもので、個人と法人が行う取引については、あくまで通常の取引価額(=時価)で行うべきと考えられるからです。
したがって、個人から法人への譲渡については、実務上は通達による評価額に修正(土地を時価評価したうえで、法人税等相当額の控除をせずに小会社とみなして評価)を加えた所得税法上の時価(=法人税法上の時価)を適正な時価とみなして使うケースが多いのです。この所得税法上の時価と相続税評価額は大きく乖離していることも珍しくありません。
仮に所得税法上の時価1億円の非上場株式を相続税評価額3,000万円で売却した場合、まず、購入した法人で時価と購入額の差額7,000万円が受贈益として法人税等の課税対象となります。さらに、個人が法人に時価の50%以下で資産を譲渡したとして、「時価で資産を譲渡したものとみなす」という恐ろしいみなし規定の適用の該当となり (所得税法第59条)、実際には3,000万円でしか売却していないにもかかわらず、1億円で売却したものとして、譲渡所得税等の納付が必要となります(みなし配当に該当する所得を除く)。また、法人が時価よりも著しく低い価額で個人より資産を買い取った場合、資産を売った個人から既存株主への贈与があったとみなされるリスクすら免れないこともあります。
このように、非上場株式の譲渡価額を誤ると、悪夢のトリプル課税が行われるリスクもありますので、慎重な判断が要求されます。